殺された能楽師の言い伝え

梅原猛 著書の『うつぼ舟Ⅰ 翁と河勝』に、こんな話がありました。

室町時代のある日、金春の能楽師が、京都御所で演能するため、どうしても奈良豆彦神社(ならずひこじんじゃ)の翁面を着けて舞いたいと借りに来ました。
村人たちは快く面(おもて)を貸しましたが、返ってきたのは別の面であることに気がつき、慌てて能楽師を追いかけましたが、口論の果てに殺してしまったのでした。

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返ってきたら違っていた…まるで映画『チェンジリング』のような怖い話ですが、一体どうしてそのようなことが起こったのでしょう?
本物はどこへ行ったのでしょう?
そして、そのことで能楽師を殺してしまったというのも、凄まじい話です。
殺してしまっては、真相も闇の中です。

それほどまでに大切にされていた「翁舞」とは、この村人たちにとって、一体何なのでしょう

つと訪ねてみたい衝動に駆られ、先日、私はカメラを携えて、近鉄奈良駅に降り立ちました。

奈良豆彦神社は、奈良市と京都府との県境に近い、奈良坂(ならざか)にあります。

近鉄奈良駅から4キロ強、午後から仕事があった私は、青山団地方面行きのバスに乗りました。(奈良交通バス・奈良阪停留所下車)

のどかではありますが町中にある神社は、ひっそりと静かな佇まいでした。

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最近まで、殺された能楽師の霊を弔った「金春塚」というのがあったそうですが、土地開発のため、なくなってしまったそうです。

この神社では能楽の源流である「猿楽」が発達したようですが、その猿楽の元が「翁舞」(おきなまい)だと言われ、能でも狂言でもない位置づけがなされています。

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今年久しぶりに、薪御能にて、春日大社に奉納された「呪師走りの儀」の翁舞を観ました。
薪御能では白い翁(白式尉 はきしきじょう)が一人で舞います。さらに「式三番」では三番叟が黒式尉面(黒い面)を使うのに対して、奈良豆彦神社の「翁舞」では三人の翁が舞い、三人とも白い面を使うところが特徴です。
またさまざまな文献から、梅原氏は、奈良豆彦神社の「翁舞」は観世より前に存在し、今の翁舞の元だったのではないかと推測しています。

さて。

現在、無形文化財に指定された奈良豆彦神社の翁舞は、10月8日の宵宮に、翁講の人たちによって舞われます。

翁講とは、この奈良坂一帯の男子が代々受け継ぎ、謡や舞は口伝によって伝えられているそうです。

村人たちは歳の順に翁を務め、現在のようにシテ方、狂言方、囃子方と歴然と分かれているのではなく、

すべての人たちがわけ隔てなく役割を担い、これもまた順番に務めてゆきます。

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あいにく、今年の行事を外してしまい、まだ観た事がありません。
資料からではなく、ぜひ生きた芸能をこの目で見たいです。来年こそ!

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その他

この神社には、能面「べしみ」というプリミティブ(原始的)な形相の鬼の面(室町初期 応永二十年・1413)があり、これは日本最古のものだそうです。
その他、室町時代から江戸時代にかけての能狂言面十九面などや能衣装が保存されているそうです。

本殿裏の樟(くす)の巨木は、奈良県の天然記念物で、資料には根元幹回り約12.8m、樹高約30mとありますが、樹齢千三百年にもなろうというこの大木。

実際に目にして、呆気に取られました。

あたり一帯が「古代」の形相を呈していて、月並みな表現ですが、宮崎駿の世界!がいきなり出現したかのようです。

塀を隔てた周辺には民家が立ち並び、何のへんてつもない日常に、突如次元の違う空間が現れたといった感じで、畏敬の念にかられました。

写真を撮ったのですが、大きさが伝わらないとかそう言うことではなく、時代の生き証人の偉大な佇まいと異質な空気を、にわかには画像に納めることができず、掲載しないことにしました。

辺鄙な場所にある、まったく脚光を浴びない神社ですが、たいへん興味深い「宝」や「精神」で満ち満ちています

一度、足をお運びになるだけの価値はあります。

私が訪ねた時は、無人状態だったのですが。
翁舞など、人が集まるときに訪ねて、ぜひ、いろいろと話をお伺いしたいと思います。
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この記事へのコメント

snowwhite
2009年12月25日 02:51
「殺された能楽師の言い伝え」すごく怖い!私の想像です。能楽師はどうしてもこの面をつけて舞いたいと思っていた。つけて舞っているうちに、ますます執着がつのっていく。しかし借りたものは返さなければならず、身を切られるような思いで返しにいく。しかし、村人には能楽師の執着のこもった翁面は違ったものに見える。能楽師にとっては、つらい思いをして返した面に村人が言いがかりをつけてるとしかおもえない。村人には能楽師が面をすりかえたとしかおもえない。そこで、双方、激昂し、悲惨な結末へと・・・。子供のころ、肉付きの面というこわーい話を聞いたのをおもいだしました。この話を聞いた後、面を見るのがしばらく怖かった。
あをによし 月森砂名
2009年12月25日 08:14
★snowwhiteさん
すごい!
お互い、芸に対する命を賭しての真摯さが、ひしひしと伝わり、それが物悲しい物語ですね。
ある意味、いい話ですねぇ。

この行き違い。
現実にありそうで、リアルです。

これでストーリーを書きたいです。

「肉つきの面」ってどんな話ですか?
sowwhite
2009年12月27日 22:13
肉付きの面はいろいろバージョンがあるようなのです。意地の悪い姑が鬼女の面をつけて嫁を脅かすのです。すると、面が顔に張り付いて取れなくなり、無理にとろうとすると文字どおり肉付きの面になってまうのです。よく似た話で、能面師とお侍(?)の確執でやはり面が取れなくなったという話をどこかで読んだ記憶があり、探したのですが見つかりません。話もうろ覚えで・・・。きっと図書館で借りた本だったのかなぁ・・?見つかったらお知らせしますね。
是非、ストーリー書いてください!楽しみにしています。是非読みたいなぁ!!
あをによし 月森砂名
2009年12月28日 09:35
★snowwhiteさん

おお、生々しいですねぇ。
楳図かずおみたい。

伝承だったら、もっと凄いですね。

ウチの母は習い事で能面を彫っていましたが、
怖いから、般若など、怨念を感じる面は彫らないと言ってました。
それほどの腕でもないから、大丈夫でしょうにね。

ですが面には魂がこもりやすい感じがします
神楽童子
2010年03月17日 21:24
日々お世話様です。いつもHP拝見しております。昨年、念願叶って自費出版の運びとなりました。10月中旬より各書店にて販売してます。若き日の神楽師の物語でタイトルは「お神楽初恋巡演記」です。いち早く岩手県立美術館&図書館&博物館のライブラリー・書庫で配架になりました。また情報誌悠悠そしてFM岩手「岩手の本棚」でも紹介されました。昨年は新聞掲載はデーリー東北&盛岡タイムス&毎日新聞が取り上げくれました。今年は岩手日報&日本農業新聞&朝日新聞&観光経済新聞で掲載されました。詳しくはブログ神楽童子「お神楽初恋巡演記」(http://blog.goo.ne.jp/juriyo_1955)参照願います。神楽を愛する多くの皆様に読んで欲しいと思ってます。

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